退去強制とは?

日本に滞在することが好ましくない外国人に対し、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」と言う。)は退去強制手続を行うことができると規定されていますが、一方出国命令と呼ばれる手続きもあります。それぞれの違いやどのような外国人が該当するか等を解説します。

退去強制とは

入管法第24条に規定されている退去強制事由に該当した外国人は、退去強制手続が取られます。退去強制手続の対象となった外国人は原則、入国警備官によって出入国在留管理局(以下、「入管」と言う。)に収容されます(全件収容主義)。

収容期間は30日間で、特別な事情があると法務大臣が認めたときは更に30日間の更新が認められることで最大60日間の収容となります。

収容期間中は、入国審査官による違反審査を経て、審査官による対象者への口頭審理へと進みます。その後対象者は異議の申し立てができ、異議申立てに対する法務大臣の裁決により、退去強制該当者と認められた時は、原則対象者の国籍国に送還されます。
よって、対象者が収容されてから、仮放免がない限り原則30日間(最大60日間)以内に裁決が出されてしまいます。
退去強制によって送還されてしまうと、対象者は退去強制があった日から5年間、日本に上陸することができなくなってしまいます。

退去強制となる人

入管法第24条には退去強制事由が規定されており、違反すると退去強制の対象となります。
主な退去強制事由は以下の通りです。

  1. 不法入国者(入管法第24条1号)
    偽造パスポート等、有効なパスポートを持たないで日本に入国した者や、密入国者が該当します。日本の領土はもちろん領海、領空に入った時も入国が成立します。
  2. 不法上陸者(入管法第24条2号)
    入国審査官等から、上陸の許可を受けないで日本に上陸した者が該当します。
    【具体例】
    ・空港等で入国審査官の隙をついて、上陸許可を受けずに審査ゲートを通り抜けた者
    ・船に隠れて密入国した外国人が日本の領土に降り立った場合
  3. 在留資格を取り消された者(入管法第24条2号の2~4)
    在留資格を取り消された者が該当します。
    【具体例】
    ・「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもってコンビニ等の単純就労を行い、在留資格を取り消された者
    ・虚偽の申請で在留資格を取得した者が、虚偽が発覚した後在留資格を取り消された者
  4. 偽変造虚偽文書行使等(入管法第24条3号)
    他の外国人に、不正に在留資格認定証明書や上陸特別許可等を受けさせる目的で偽造、変造した文書を作成、提供した者が該当します。
    【具体例】
    ・就労ビザを取得させる目的で、卒業証明書を偽造して作成した場合
    ・婚姻生活が破綻している夫婦が、「日本人の配偶者等」を取得する目的で、仲の良い写真を撮影し、双方に提供した場合
  5. その他、不法入国、不法滞在を幇助した者、テロ行為の協力者等

収容について

退去強制の対象者は原則30日間収容されますが、収容を免れる場合があります。それが、①仮放免と②出国命令です。

①仮放免
入管法54条に基づき、外国人本人又は親族等代理人による請求により仮放免手続きを行うことができます。仮放免は、病気や身体の障害の状況、家族の状況、本人の素行等総合的に勘案して許否が判断されます。

②出国命令
退去強制手続の例外として、出国命令制度があります。これは一定の要件を満たす者に対して、収容せずに簡易的に出国させるという制度です。出国命令手続きによる出国の場合は、上陸拒否期間が1年間になるというメリットがあります。
要件は以下の通りです。

  1. 速やかに出国する意思を持って、自ら入国管理局に出頭すること
  2. 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
  3. 入国後に一定の刑法上の犯罪により懲役又は禁錮に処せられていないこと
  4. これまでに退去強制されたり出国命令を受けて退去・出国したことがないこと
  5. 速やかに出国することが確実と見込まれること

出国命令の通知を受けた外国人は、通知を受けた日から15日を超えない期間内での出国を命じられます。

収容されてしまった場合(在留特別許可)

退去強制事由に該当するとして収容されてしまった場合、入国審査官等の審査によって容疑無しと判断され、無罪放免とならない限り、原則30日以内に退去強制が確定します。しかし、特別な事情により日本への在留を希望する場合には、在留特別許可を求めることができます。

在留特別許可が認められれば、退去強制事由に該当していた外国人であっても適法に日本に在留することが可能となる一方、入管法上、日本での在留が好ましくない者に対する規定である退去強制事由に該当した者に対し在留を認めることとなるので、そのハードルは極めて高いです。

入管法上、在留特別許可が認められるケースは以下の通りです。

入管法第50条(法務大臣の裁決の特例)
法務大臣は、前条第三項の裁決に当たって、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一 永住許可を受けているとき。
ニ かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
四 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
(以下省略)

実務上は四号が問題となりますが、どのような場合において在留特別許可を認めるのかについて、明確な基準が存在せず、法務大臣の裁量によるところが大きいです。
実務運用上や、入管のガイドラインによる、在留特別許可が認められやすいケースを以下にまとめます。

【在留特別許可が認められやすいケースまとめ】

  1. 元日本国籍で、本籍を有していた者(元日本人)
  2. 日本人、特別永住者、『永住者』、『定住者』と法的に婚姻が成立し、かつ、一定期間以上の同居等、婚姻の実体(婚姻信憑性)の立証が十分になされている場合
  3. 日本人の実子(日本国政の有無は問わない)を親権をもって監護養育する者
  4. 日本で生まれた(あるいは幼少時に来日した)おおむね10歳以上(特別審理官による判定時)の実子が同居・監護養育され、日本の学校に通学している、おおむね10年程度以上日本に在留してきた外国人一家が出頭申告した場合で入管法以外の法違反(軽微なものを除く。)が無い場合
  5. 日本人の実子あるいは日系人(2世、3世、4世)であり、本来、定住者告示等に該当するため『日本人の配偶者等』又は「定住者」の在留資格を取得しうる地位にある者
  6. 特別永住者の実子
  7. 本国での治療が不可能な難病等を抱えており、日本での治療が必要不可欠である者又はこのような治療を要する親族を看護することが必要不可欠である者

収容されてから原則30日以内に退去強制の裁決が確定する為、それまでに在留特別許可を求めるに当たって、外国人にとって有利な事情とその立証の準備をする必要があります。収容後に在留特別許可を求める場合は、極めて短いタイムリミットがあり、1分1秒を争うことを認識しましょう。

詳しくは以下のページでも解説しています。

※在留特別許可と出国制度

在留特別許可は、退去強制手続中の外国人に与えられている規定の為、出国命令制度によって出国準備中の外国人は、在留特別許可を求めることはできません。出国命令は出国後の日本上陸拒否期間が1年となるメリットがありますが、1年経過すれば必ず再入国(上陸)が保証されるというものではありません。
在留特別許可が認められる可能性が高い外国人にとっては、出国命令ではなく、あえて通常の退去強制手続の中で在留特別許可を求めた方が良い場合もあります。

まとめ

退去強制事由に該当してしまった場合、日本での滞在を希望する外国人は速やかに入管に出頭しましょう。退去強制の手続は書面のみではなく、口頭での審査もあるため、入国審査官の心象をよくすることは非常に大切です。逮捕されたのか、あるいは自ら過ちを認め出頭したのかは審査上非常に重要なポイントです。

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